<< 人工海底山脈の研究がますます重要に >>

<< 世界人口と食糧 >>
 世界人口は1965年から僅か40年で約2倍の67億人に達し、現在でも10億人が飢餓状態と言われます。毎年0.8億人増加する中、日本国民が消費する食糧の60%は諸外国からの輸入に依存しており、食糧自給率の向上は大きな課題です。古代文明を誕生させた農業技術は、太陽光、水、肥料を活用して穀物栽培に適する環境を創造してきました。
 現在もバイオ技術を駆使した品種改良などが行なわれていますが、陸上の生産だけでは世界の人口を支えきれないと危惧されています。


<< 海洋での食糧生産 >>
 地球表面積の70%を占める海洋での食糧生産は人類の夢と言われてきましたが、人類が海で食糧をつくり殖やすことはできませんでした。健康・安全志向による世界的な魚食の増加、乱獲、汚染で世界の漁業が壊滅の危機に直面しているといわれます(図:Sience.Vol.314)。
 2008年3月に閣議決定された日本の第一次海洋基本計画では、これまで人類が利用したことのない沖合海域で基礎生産を増大するとしています。私たちには環境に十分配慮しながら海洋基本法を遵守する責任があります。


<< 食糧生産と光合成 >>
 生物生産の起源は海洋でも陸と同様に殆ど全ての植物プランクトンと藻類が行なう光合成です。海洋での光合成は農業と異なり水や気温に制限されず、真光層栄養塩類濃度に制限されます。栄養塩類を豊富に含む真光層以深の海水が、風や潮流エネルギーによって真光層に混合されると生物生産が始まります。水産庁は礁や堆の周辺に好漁場が形成される原理に着目し、世界で初めて大陸棚に人工の山脈を建設して植物プランクトンを増殖させる実証事業を実施しました。この事業は1995年から6年間行なわれ、植物プランクトンの増殖と漁獲量の飛躍的増加など著しい成果を得ました。

<< 排他的経済水域の活用 >>
 日本の排他的経済水域は世界第6位の面積を誇ります。この海域で 食糧、特に良質な蛋白質である魚介類を生産できれば、食糧自給率を向上することができます。 人工海底山脈事業は、昔から漁師が営々と利用し続けてきた天然礁を人工 的に作るもので、自然の潮流を利用して栄養塩類を真光層に供給し、植物プラ ンクトンの光合成を活発化させ食糧を増産しようという革新的な技術です。
  これは日本の人口約1億3千万人の蛋白源を自国の海で供給するための事業ともいえます。人工海底山脈は完成すると人工のエネルギーを全く使うことなく自然の力で植物プランクトンを増殖 させる環境をつりだすのです。

<< 自然共生社会と循環型社会 >>
 人工海底山脈は海洋で食糧を生産するために実施される重要な基盤整備事業です。大きな海洋では針の先ほどの事業かもしれませんが、1事業で何万m3もの材料が使われます。公共事業としてその材料をどこから調達するのが望ましいのでしょうか。これまでに実施された人工海底山脈事業では2種類の材料が使われてきました。一つは石炭灰をリサイクルした硬化体ブロックで、最初の3事業に適用されました。もう一つは、山林の採石場から切り出される貴重な自然石で 5事業で採用されました。どちらが自然と共生でき、循環型社会形成推進基本法
の 精神 に則っているか時間が明確な答を出してくれるでしょう。
  また、大型のブロックを積み上げた海底山脈の方が多様な種の魚介類の共生が可能になり、豊かな岩礁性生態系が形成されることも検証されるでしょう。

現場で皆様と一緒に観測や漁獲や解析などを行ないながら結果を共有することで、人類の夢の実現を実感できれば幸せです